『こゝろ』- 6. 情報過多の時代

夏目漱石の『こゝろ』、大人の読書感想文。

1. なぜ漱石か
2. あらすじ
3. 表現の深さ
4. 暗さの起因
5. 自由という不自由
6. 情報過多の時代
7. されど……

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6. 情報過多の時代

現代の悩みにつながる点があるのではないか……
という視点で読んでみると、浮かび上がったもう一つの共通点は、「情報過多」。

江戸時代における情報源は、かわら版程度。
情報量も少なく、伝達速度も遅い。

それが、明治になり新聞が普及したことにより、情報量が一気に増え、伝達速度も速くなった。
それまでは入ってこなかった遠方の情報も、たくさん入ってくるようになった。

情報は多ければ多いほどいい
という人もあろうが、
情報が多ければ多いほど、それだけ人は心を揺さぶられてしまう。
本来なら自分と直接関係のない情報にまで、心を揺さぶられてしまう。

例えば、事件のニュース。
自分や家人に同じことが降りかからなないか、
家人が同じようなことをしでかさないか。
ニュースを見るたびに、ぐらんぐらんと心を揺さぶられてしまう。
ニュースが多ければ多いほど、それだけ心を揺さぶられてしまうのでした(* 1)。

その例をこの『こゝろ』では、乃木将軍の死に動揺する「私」の父親や「先生」の姿に見ることができます。

「乃木将軍が死んだときも、父はいちばんさきに新聞でそれを知った。
『大変だ大変だ』と言った。
何事も知らない私たちはこの突然な言葉に驚かされた。」(p 137)

「悲痛な風が田舎の隅まで吹いてきて、眠たそうな樹や草を震わせている」(p 138)

「私(「先生」)は号外を手にして、思わず殉死だ殉死だと言いました。
 私は新聞で乃木将軍の死ぬまえに書き残していったものを読みました。(中略)
それから二、三日して、私はとうとう自殺する決心をするのです。」(p 299)

かわら版時代であったなら、乃木将軍の殉死に関する情報も、そんなに克明には入ってこなかったであろうに、
新聞という時代であったからこそ、その影響が大きくなったのかもしれない。

本来なら自分と直接関係のない情報なのに、ぐらんぐらんと心を揺さぶら、自殺のきっかけにさえなってしまった。

明治というのは、情報が一気に増えた時代。
情報が多すぎるゆえに、心の動揺が増加してしまった時代。

これは現代を生きる私たちと、同じだと思ったのでした。

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* 1

「ニュースを見るたびに、ぐらんぐらんと心を揺さぶられてしまうのでした。」

なので、わたしニュース見ないんです。
特に、映像として見ると、衝撃が強すぎて。
日常生活に支障をきたすほどショックを受けたり、人間不信になってしまった。
ゆえに、やめた!
情報は、江戸時代並みでいい、と腹をくくりました。








by e-sakamichi | 2016-08-21 08:00 | 本 & ひとりごと | Comments(0)

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