『石の来歴』- 1 / 序論
2017年 08月 12日
1.序論
世の中には二種類の人間が存在する。
石に興味のある人間と、興味のない人間だ。
興味のない人間にとって、石はただの石でしかなく、風景でしかない。いや風景にもなりえない、目にも止まらない存在でしかない。
「ただ意味もなく山河野原に散らばっているもので、邪魔にこそなれわざわざ手にとって眺めてみる価値などない」と考えているだろう。
しかし、石に興味のある人間にしてみれば、「河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている」のである。
この「河原の石ひとつにも宇宙の全工程が刻印されている」の一文は、石好きならどこかで一度は見かけたことのある文章であろう。
石が好き、というと、なんて地味な趣味だ、たかが石ころのどこにそんな魅力があるのか、といぶかしがられること度々な石好きな人々にとって、石の魅力を語るのにこれほどの名文はない。「石は宇宙とつながってるんだぜ。ロマンだろ」と鼻高々に公言できるのである。
しかもこの一文が、芥川賞を受賞した作品の冒頭の文章となれば、なおさら鼻高々に語れるのである。
裏を返せば、こういう名文を後ろ盾にしないと認知されないほど、石好きというのは肩身が狭い。もちろん私もその一人。
という石好きにとっては名文中の名文で始まる『石の来歴』を、今年の読書感想文に選ぶことにした。
まずは図書館で本を検索。そこで驚いたのが、この物語が「戦争文学」というジャンルであったことだった。石好きの変人の話(石好きは変だと認めているのか、わたし)だと勝手に思っていたので、戦争と繋がるとは全くの予想外だった。